Armand de Maigretインタビュー

【アルマン・ド・メグレ】モロッコ生まれ。フランス人の父とアメリカ人の母を持つ。メリルリンチ証券、米ポメリーなどを経て、ワイナリー運営のコンサルタントに。2年前から、カルトワインのスクリーミング・イーグルとホナータの総支配人。
アルマン・ド・メグレさん

アルマン・ド・メグレさん

アルマン:  まずホナータの話をする時はジャケットを脱がなきゃだね。武村: あ、やっぱりホナータはカジュアルなイメージが大切なんだね。アルマン:  やっぱり、ジャケットはフォーマルでナパのイメージが強い。ホナータはもっと南のサンタ・イネズ・ヴァレーが拠点だからカジュアルなんだよ。
武村: 恐らく、読者が一番聞きたいと思うのは、スクリーミング・イーグルとの関係と、ホナータがスタートした経緯かな?

アルマン:  ナパのスクリーミング・イーグルでビジネスを成功させたオーナー達は、ナパ以外の場所で同じボルドー系の品種を使って最高のワインを造り、ビジネスを成功させたいと思ったんだよね。 リスキーな事業だと知っていたんだけれども、それでもなんとかして成し遂げる気持ちでスタートしたんだ。 それでナパに在住しているオーナーの友人が、サンタ・イネズ・ヴァレーのポテシャルについて教えてくれて、リスキーで長期戦になるが、素晴らしいブドウができるかもしれないと。

武村:  なぜリスキーなの?

サンタ・イネズ・ヴァレーの畑を取り巻く 砂質土壌

サンタ・イネズ・ヴァレーの畑を取り巻く 砂質土壌

アルマン:  1つ目の理由は、ボルドー系の品種を植えるには、考えられない程、冷涼な気候だからさ。
2つ目は砂質土壌だから。世界中のどの有名なワイン生産者を見ても、砂質土壌から出来ているワインは少ないんだ。 ボルドーのラフィット・ロートシルトには砂質土壌がある。 それから、ローヌのシャトー・ラヤスも砂質土壌が多い。他にはオーストラリアにもいくつかあるみたいだけれど、基本は少ないんだよ。

この二つのブドウ栽培にとって不利となる条件を踏まえて、サンタ・イネズ・ヴァレーで成功するには、優秀なブドウ栽培家でなければいけないということがわかるよね。ほら、ここでボルドー系のブドウで成功した事例がなかったからね。
あと、砂質土壌というのは、化学肥料や人工的な事に極力頼らずに、自然に耳を傾けながらブドウの育成を行わなければならないんだよ。

まぁ、そんなかんじで四方八方からの反対と不安を押し切ってホナータが始まったんだけど、どれだけ忠告されても「はいはいはい」で、 「どうにかなる」的な考え方だったんだが、実際に始めてみて、リアルな過酷さに気付いたんだよ、苦笑。

オーナーはビジネスマンだからリスクが好きなんだよね。 でも優秀なビジネスマンはリスクをコントロールできる才能を持っている。

彼らがまず行った事は、世界各国の優秀な醸造家達を招いて、畑の見学をしてもらって、 さまざまなプロの観点からの砂質土壌でのブドウ栽培のノウハウを集める事。 そして、そのうちの一人はシャトー・ラトゥールの最高醸造責任者のフレデリック・アンゲラーだったのさ。

武村: じゃあ始まった当初は、畑は開拓されていないヤブだったってこと??

アルマン:  ホナータの所有している畑は600エーカーもあったんだけど全ては牛牧場だったんだ。アンゲラー氏に、どこにボルドー品種を植えればいいのか聞いたら、「本当に使えるのは4、5エーカー程だね」と言われてしまって・・・ 僕らとしては、じゃ、残りの595エーカーはどうすればいいんだ・・・・ってね、苦笑。 そしたら、アンゲラー氏が、「アスパラガスでも植えたら?」と・・・笑 フランス人にとって、冷涼な砂質土壌と言えば、良質なアスパラという方程式が浮かんでくるんだ。 ワイン業界の僕らにとっては、アスパラを栽培するなんて、セクシー度ゼロ。

そこで、振り出しに戻ったかんじで、やっぱ冷涼すぎるから、ボルドー品種だけじゃビジネスが成り立たないのではという話になった。 なので、シラー、ヴィオニエ、グルナッシュ、そしてサンジオヴェーゼを実験的に植える事にしたのさ。これらは、全て冷涼な気候で良く育つブドウだからさ。

結果、10品種を82エーカーの畑に植えて、ホナータがスタートした。 そこで、10、15年後に様子を見て、ダメならブドウを移植するなりして、その時にベストな状態にしようということになった。理にかなってるだろ。
でもこの話は15年前の話だからね、笑。
今では、移植はしないという決断をして、そのまま、その当時のブドウの樹々からワインを造っているんだよ。

武村: じゃ、最初の実験はそこそこ成功したってことだね?

アルマン:  そうなんだよ!全てが成功なんだ。今ではプティ・シラーを含めて全11品種を植えているんだ。 この15年間でわかった事は、砂質土壌を理解するには、正直な人間と莫大な努力が必要だということ。

武村: なるほど、スクリーミングイーグルに関しては、そんな苦労はなかったもんね。

アルマン:  でもクオリティー第一の信念はスクリーミング・イーグルでも同じさ。
やっぱりブドウの栽培に一番力を入れて、土壌に正直なワインを造って、 とにかくウマイワインを造るんだ。 その他の事は、極端な話、後から付いてくると信じてる。

スクリーミング・イーグルは、本当に小さな農園で、カベルネ・ソーヴィニヨンには最高の条件で、メルロとカベルネ・フランも良く育つ。 ホナータよりも優れている所は、ブドウの樹齢が高いことかな。

武村:  スクリーミング・イーグルは1992年にジーン・フィリップスによって始められたんだよね。ブドウはその時期に植えられたの?

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アルマン:  ほとんどは彼女が1986年に植えたんだよ。ホナータは2000年だからね。ブドウの樹は若い時は、勢いがありすぎて、あまり良いブドウが収穫できないんだけど、砂質土壌ということから、ブドウに栄養がそこまで廻らないので、おかげでおとなしいブドウが育っている。

武村: ホナータのワインのラベルに品種が記載されていないのは、柔軟性をキープしたいからなのかな?

アルマン:  そうだね。でもフロントラベルは品種の記載がないけど、バックラベルには記載してるんだ。消費者にとっては難しいことはわかっているんだけど、何が入っているかというよりも、中に入っている物が何であろうと美味しいと考えてくれることを信じている。あとは、どんな食事をしているかによって合わせて欲しいね。

武村: ナパのカベルネのスタイルと言うと、ガッツリで果実味もあって、なじみがあるんだけど、サンタ・イネス・ヴァレーのカベルネはどんなスタイルを期待すればいいのかな?

アルマン:  まずは、サンタ・イネス・ヴァレーでは、ほとんどカベルネ・ソーヴィニヨンが植えられていないということ。通常、海岸沿いではピノ・ノワールとシャルドネが植えられてて、内陸部分ではシラーが植えられる。

距離的に考えると、カベルネ・ソヴィニヨンに適している地域はそのちょうど中間辺りなんだけど、ホナータは本当にその中間にあるんだ。

サンタ・イネス・ヴァレーでは育成期間が長いから、ナパのカベルネと同様の果実味があるんだけど、酸味が保たれてバランスが素晴らしいワインができる。

武村: アルマンはどうしてホナータで働く事になったの?

アルマン:  さっきのホナータが始まった当初の話を想像してくれればわかると思うけど、こんな所で働くなんてありえないと思ってたんだ、笑。

当初、自分のワイナリー・コンサルティング会社を経営していたんだけど、ホナータというワイナリーのマーケッティングの手伝いをしてくれないかという依頼がきてさ。 最初、答えは「NO」だったんだよ。 僕はナパに住んでるんだけど、サンタ・バーバラはそこから5時間半も南だし、僕は家族との時間を大切にしたかったから、そんな話、とんでもないと思ってさ。 当時の人生に満足してたし、とりあえずかんべんだ、と、笑。

でも、ホナータの経営者が、実際に見ないで「NO」はありえなくね?ということで、招待されて行ったんだ。 そしたら速攻、答えが「YES」に変わったよ。 ホナータの全てが美しいんだ!!!ホナータは「もってる」んだよ。
「自然」という環境をキープするのに、それぞれが役割を果たしていて、1つの小さな世界が成り立っている。 景色、土壌、ブドウ、優しい人達、風景、鶏、七面鳥、羊、ヤギ、豚、ワインメーカーのマット・ディースも素晴らしい人間だし。 そこに惚れたんだよ。

まぁ、ビジネス面でも、スクリーミング・イーグルという「おまけ」が付いてくるということを知っていたから、断れなくなってさ。
僕はワイナリーの経営とビジネスを任されている人間だから、ワインの事も考えるけど、人材も大切にしているんだ。
ブドウの樹はストレスを感じる事が良いとされるんだけど、ワイナリーで働いている人間は真逆だからね。

武村: サンタ・イネズ・ヴァレーのヴィンテージについて教えてくれるかな?

アルマン:  ホナータ(サンタ・イネズ・ヴァレー)はナパのワインと違って、毎年同じスタイルのワインが出来上がるわけじゃないんだよね。
暖かい年もあれば、寒い年もある。2004,2006,2008,2010は寒い年。2005、2007、2009は暖かい年。

ソムリエ武村とアルマン

ソムリエ武村とアルマン

武村:  暖かい年=良い年なの?

アルマン:  んーーーーーー。。。。1つ言える事は、ナパで寒い年のときは大惨事だよ。彼らは寒さに慣れていないから、どう対応していいかわからないからね、笑。
サンタ・イネズ・ヴァレーでは気温差はワインの多様性でしかないかな。ビジネス面からしても、暖かい年のワインは、ナパ好きの消費者に売って、寒い年のワインはボルドーを好む消費者に売るんだ。簡単だろ。

どんなヴィンテージでも共通していることは、ピュアな果実味さ。明るみがある赤い果実で、エネルギーを感じるブドウなんだ。
暑い年はブドウが赤色から黒に、そして、タンニンも重め。寒い年は赤色の果実で、タンニンもエレガント。

武村: 今、飲み頃のヴィンテージはある?

アルマン:  2004、2006、特に2008は食事との相性は抜群だよ。
2005と2007はパーカーポイントも高かったからね。

でもワインは本当に主観的だから、一言でまとめるのは難しいよね。 やっぱり大切なのは、消費者にとって、どこに美味しいと感じる「ツボ」があるかだよね。
評論家はワインのデキを評価するのが仕事だけど、それが好きか嫌いかは飲む人の好みによるからね。 だって98点のワインと100点のワインの違いを説明しろって言われてもできないだろ?

武村: 完璧だと言われる100点ワインも、そもそもの「完璧」という言葉が主観的だもんね。

アルマン:  そうだよ。それにそのワインの100点はその日のその時間に100点をとったというだけの話だし。 時間と日にちがずれていたら、100点じゃなかったかもしれないしね。

武村:  ヨーロッパではホナータのワインは売れてる?

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東京グランドハイアット のスタッフとともに
オークドアのテイスティングルームにて

アルマン:  僕はフランス人なんだけど、帰国する時は毎回ホナータを数本持って帰るんだよ。
まぁ、みんな僕がホナータで働いている事を知っているんだけど、うちのワインについて必ず言われる事は、 「果実味が素晴らしい」ということ。フランスでその果実味を再現できるのは最良のヴィンテージだけだからね。
でもフランスワインの骨格には常に魅せられるかな。カリフォルニアでは、果実味はどのワインにもあるけど、骨格はあるときと無いときがあるからね。
結果フランスは骨格、あざやかさ、エレガンスが大切で、カリフォルニアは果実味が大切。最高のワインをつくりたかったら、この両方があれば完成するかな。

武村: 僕が言うのもなんだけど、英語上手いね。

アルマン:   君の英語の上手さにも僕の方がさっきから驚かされているんだけどな。笑

妻がアメリカ人だから、いつも発音とか言い回しを直されるんだ、苦笑。でも僕も彼女のフランス語を直すから、お互い様かな。

武村: フランスワインびいきではないんだね?

アルマン:  美味ものに差別はないよ。フランスワインの全部が美味しい訳じゃないでしょ。

武村: じゃブルゴーニュは当たり外れが多過ぎてダメ?

アルマン:  大好きだよ!おごってもらうときだけ飲むよ、笑

武村:  いずれはフランスに戻って仕事をする気なの?

アルマン:  いやー僕はカリフォルニアが大好きだよ!
カリフォルニアワインも、本当はもっと美味しくなきゃいけないと思う。ポテンシャルはある。

同様にフランスワインももっと美味しくてもよいと思うんだ。例えばフランスのワイナリーでは、いまセラーを立て直すのが流行っていて、 何百年も前に建設されたセラーはブレタノマイセスというイースト菌に汚染されていて、そこで熟成されたワインは、特有の臭みが付着して、ワイン本来の果実味を奪い取ってしまう。
これを完全に排除する為に立て直しが行われているんだ。だからボルドーやブルゴーニュワインの将来に本当に期待している。

カリフォルニアでは基本、もう少し早めに収穫をすることを心がけたい。 そのほうが、食事とも合わせやすいし、全体的なバランスも良くなる。果実味に重視しすぎて、酸を添加しなきゃいけないなんておかしいだろ。
重たいワインは、一口目はいいが、それ以上は飲めないよ。
ホナータでは2杯目も美味しく飲める様なワイン造りを心がけているんだ。気付いたらボトルが空!みたいな、笑。これもワインが売れるビジネスの秘訣さ!

ホナータ 醸造家 マット・ディーズとソムリエ武村の築地めぐりはこちら

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以下、現在iwineで販売中のホナータのワインです。

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